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OGAMIDOおがみ戸
OGAMIDOおがみ戸

CROSS TALK

異分野のプロの「て」をつないで、まだ誰も見たことのない新しい神棚を

2019年11月、woodpeckerの神仏具シリーズ第1弾として、手工芸デザイナーの大治将典さん、宮大工の小保田庸平さんとコラボした神棚 「GIRIDO」を発売し、大きな反響をいただきました。それから約2年の時を経て、シリーズ第2弾となる仏壇・厨子「OGAMIDO」のリリースが実現。その誕生秘話を、3人のクロストークでお届けします。

両手で開閉する伝統的な仏壇の扉「拝み戸」から得たインスピレーション

woodpecker 福井(以下、福井) woodpeckerを立ち上げて10年目の頃から、現代のライフスタイルに寄り添う神仏具の製造を志すようになりました。勝手な話ですが、木地職人の家に生まれ育ちながらも家業を継がず外の世界へ出てしまった僕にとって、宿題のようなものだったかもしれません。その願いが神棚 「GIRIDO」で実現したこと、大治さんと小保田さんのお力添えで、思い描いていた以上の素晴らしい製品ができたことが本当にうれしくて。「おふたりと一緒にぜひ、オリジナル仏壇も作りたい」というのが今回のプロジェクトの始まりです。

宮大工 小保田庸平氏(以下、小保田氏) 「GIRIDO」の開発中から、次は仏壇づくりを考えている気配を福井さんから感じていたので、話を聞いた時は「やっぱり来たな」と(笑)。もちろん、一筋縄ではいかないと分かっていたけれど、このチームならいいものが作れそうだと思い、お引き受けしました。僕から1つだけリクエストさせてもらったのは、「GIRIDO」と同じく、木曽ひのきを使って白木仕上げにしたいということです。

手工業デザイナー 大治将典(以下、大治氏) woodpeckerの神仏具シリーズ第2弾、僕にとっては予想外の展開でしたよ(笑)。ご相談をいただいた当初は正直なところ、自分の中で迷いがありました。だって、いわゆる「モダン仏壇」はすでに世の中にたくさん出回っているじゃないですか。「このチームだからできるもの」の答えを見つけるのは、神棚以上に難しいかもしれないと思いつつ、福井さんのお誘いを受けて久しぶりに岐阜へ向かったわけです。

福井 お招きしたのは福井神仏具製造所、つまり僕の実家。大治さんがインスピレーションを得るきっかけになれば…と思ったんです。

大治氏 初めてお会いする福井さんのお父さんは昔気質の職人。古いアルバムをめくりながら、神仏具づくりに関する興味深いお話をたくさん聞かせてくださいました。

小保田氏 手がけた神棚や仏壇の完成品だけでなく、製作工程の写真もメモと一緒にきちんと残されていて、福井さんのお父さんの真面目な仕事ぶりが伝わりましたよね。「この柱の納まりはこういう風に工夫したんだよ」と、秘技をいろいろ教えてくださったことも心に残っています。

福井 父はおふたりとお話ができて、うれしかったんだと思います。仕事についてあれほど饒舌に語る父を見たのは、僕も初めてだったかもしれない(笑)。

大治氏 そしてその時、自分の中にあった仏壇づくりへの迷いが消えて、福井さんのお父さんから伺った「拝み戸」の話がデザインのキーコンセプトとして浮かびました。伝統的な仏壇の扉はお寺のあらゆる出入口と同じように、両手で左右の扉を合わせることで開閉できる「合わせ扉」になっていて、そこに熟練した職人の技術が盛り込まれているんだと。扉にこだわった神棚の「GIRIDO」と、ストーリーとしてのつながりもできるし、いいなと閃いたんです。

福井 仏壇の扉は、手を拝むような形で開閉するから「拝み戸」。神棚の扉は、開閉する時に「ギギギィ」と音がなるから「ギリ戸」。どちらも辞書に載っていない、職人の間で使われている呼称です。神棚に続いて、伝統的な扉の技法を生かした新しい仏壇ができると思うと、ワクワクしました。「OGAMIDO」のデザインにあたって、大治さんが大切にされたことを教えてください。

大治氏 まず、現代の住宅事情に合わせて、本棚に納まるサイズにしようと决めました。ただ、やみくもに小さくするのではなく、仏壇・厨子としての機能や、あるべきたたずまいを残した上で、今までにない新しさを表現すること。そのバランスを福井さんや小保田さんに相談しながら、できるだけ釘やビスなどの金具に頼らず、木曽檜の素材が引き立つシンプルな美しさを追求しました。

福井 ポイントは何といっても扉、拝み戸ですよね。

大治氏 扉を固定するのに蝶番を使いたくなかったので、「GIRIDO」と同じように、ほぞ継ぎ(※ほぞ穴とほぞの突起で固定する接合方法)でやってほしいと、小保田さんにお願いしました。それから、扉を開けていただくと分かるんですけれど、通常しつらえる両端の柱をあえてなくすことで、よりすっきりとした意匠を実現しています。

小保田氏 柱をなくす代わりに、厨子本体の壁板に構造材の役割を持たせたんですけれど、実はこれ、調整がすごく難しくて。試行錯誤しました。

大治氏 やっぱりそんなに大変だったんですか。

小保田氏 「ムリ」とか「できない」って言うの、嫌いなんですよ(笑)。

福井 左右の扉を止める横木の閂(かんぬき)もポイントですよね。閂を掛ける真鍮の金物が、扉の引き手も兼ねる端正なデザインになっています。

大治氏 横木をどのくらいの大きさにし、真鍮の金物をどこまで引き算してシンプルにできるか。厨子を正面から見た時の美しさと、機能のバランスを取るのにとても悩みました。

福井 そして、この真鍮の金物の製作を引き受けてくださるところがなかなか見つからなくて、苦労しました。

大治氏 岐阜県内のあらゆる金物屋さんから「難しい」と断られましたよね。1社だけ、試作を引き受けてくださったけれど、部品を1セット作るのに丸1日かかると言われて。それだとコストが大きくなりすぎてしまうから、つてをたどって神奈川県の精密金属加工メーカーに依頼することになりました。

福井 モノもさることながら、取り付けはさらに大変で。

小保田氏 届いた真鍮の金物部品セットを見て、しばし沈黙…でしたよ。「これ、どうやって取り付けるの?」って(笑)。部品一つひとつが小さくて、しょっちゅう手からこぼれ落ちてしまうし、取り付け位置が少しでもずれると閂がきっちり真ん中に収まらない。コツをつかむまで、何度心が折れそうになったか。

福井 まさに職人泣かせの閂。

小保田氏 職人泣かせで言うと、丸屋根もなかなかのものでした。1枚板を削り出した後、かんなで微調整していくんですが、木目に沿った方向で削らないと表面が荒れてしまうので、全体を丸くすべすべに仕上げるのは至難の業なんです。大治さんのOKをいただくまで、4、5回作り直しましたね。

大治氏 今改めて寄棟屋根を見たら、頂上のパーツは接合部分にほんの数ミリ、切り込みを入れて固定されているんですね。こういう妥協のない仕事が小保田さんらしいなあと、感服しました。

小保田氏 図面やプロトタイプを見て、効率も考えながら、どの作業をどういう順番で進めていけば完成というゴールに辿り着けるかを考えるのも、僕たち職人の腕の見せどころです。その意味で、大治さんのオーダーはいつも燃えますよ。

大治氏 無理難題が多いから(笑)。

小保田氏 いえいえ、チャレンジの機会だと思っています。

大治氏 今回、「OGAMIDO」とあわせて販売される三具足(花立・香炉・火立)も、僕がデザインさせていただいたものです。仏前に飾る時は付属のトレーに乗せて、使用後はそのまま厨子の中に収納していただけます。

小保田氏 これも気持ち良く、ぴったりと納まるようになっています。

福井 かくして完成した「OGAMIDO」は、見えない部分にもデザインへのこだわりと宮大工の技術が宿った至高の仏壇・厨子です。おふたりのモノづくりに対する情熱のバトンをしっかりと引き継いで、これからお客様にお届けしていきたいと思います。本日はありがとうございました。

PROFILE

大治 将典 氏
大治 将典 氏 Oji Masanori
手工業デザイナー / Oji & Design代表 広島市生まれ。大学を卒業後、建築設計事務所、グラフィック事務所を経てデザイン事務所を設立。日本のさまざまな手工業品のデザインからブランディング、付随するグラフィックまでを統合的に手がける。2011年より「ててて協働組合」共同代表。
http://www.o-ji.jp/
小保田 庸平 氏
小保田 庸平 氏 Kobota Youhei
宮大工 / 株式会社唐箕屋本店(とうみやほんてん)代表取締役 岐阜県本巣郡北方町生まれ。大学の建築学科を卒業後、妻の実家の家業で神社・御堂の建築、神棚・御神輿等の製造販売を行う株式会社唐箕屋本店に入社。平成16年に4代目社長に就任。社名は、もともと農機具である唐箕(とうみ)を製作していたことにちなんでいる。
http://tomiyahonten.com/