実際の製品とは異なります。
woodpecker 福井(以下、福井) 僕はかつて唐箕屋さんで修業させていただき、木の扱いや職人としての心構えなど、多くのことを学びました。それがwoodpeckerの原点になっています。
宮大工 小保田庸平氏(以下、小保田氏) 残念ながら福井さんは木地職人に向いていなくて、長くは続かなかったけれど(笑)。退職されてからも、ずっと交流を続けさせてもらっています。
福井 小保田さんは同世代ということもあって、修業時代からずっと刺激をいただいている存在です。woodpeckerを立ち上げてからも、木材を分けていただいたりして、公私ともにお世話になっています。
小保田氏 大治さんと知り合ったのはどういうきっかけだったんですか?
福井 きっかけは、2014年から出展させていただいている「ててて見本市(※全国各地で中・小規模なものづくりを行う作り手およそ100組が出展し、国内外のバイヤーやユーザーに直接、製品とモノづくりへの思いを伝える見本市。2011年から毎年2月に開催されており、大治氏はその共同主催者を務めている)」。作り手と伝え手と使い手がつながって、新しいコミュニケーションやアイデアが生まれるこの見本市は僕にとって特別な場所で、毎年楽しみにしています。回を重ねるごとに、大治さんのデザインやモノづくりに対する考え方に共感が深まっていって、ゆっくりお話ししたいなと思いつつも、なかなか勇気が出ず・・・。声をかけさせていただくことができたのは、2017年の開催期でした。
手工業デザイナー 大治将典(以下、大治氏) 福井さん、意を決したように「お話があります」とおっしゃるから、何ごとかと思ったら「もしよかったら、こんど岐阜にいらっしゃいませんか」というお誘いだった(笑)。僕はもともと、お声がけいただければ全国どこへでも伺うという仕事スタンスだし、かねてから岐阜にも行ってみたいと思っていたので、うれしかったです。岐阜では最初に福井さんのアトリエを訪れて、4時間ほど話し込みましたよね。
福井 woodpeckerのこれまでのこと、そしてこれからのことをお話しして、貴重なアドバイスをたくさんいただきました。
大治氏 福井さんから「神棚」のキーワードが出てきた時は正直、「まな板で成功していらっしゃるんだから、それは福井さんがやらなくてもいいんじゃない?」と思ったんです。でも、木地職人(みこし・神仏具製造)の家系に生まれたご自身のルーツを聞いて、なるほどと心が動きました。
福井 その足で大治さんを唐箕屋さんにお連れして、小保田さんをご紹介しました。唐箕屋さんの製造現場を見ていただいたら、インスピレーションが生まれるはずだという確信もあって。
大治氏 思惑通りでしたよ(笑)。社殿や神社の扉は開けるときに「ギギギィ」と音が鳴るから「ギリ戸」と呼ばれること、その音を出す柱のほぞとほぞ穴は、熟練した職人さんがカンナで微調整しながら仕上げていくことを目の当たりにして感動しました。やはり、作り手の思いや技術が詰まった製品は、醸し出すエネルギーが違います。唐箕屋さんでは、天然の木曽ひのきだけを使っているそうですが、理由は「ギリ戸」がいい音を出すからですよね。
小保田氏 正確にいうと「木曽ひのきを使ったギリ戸は、いい音を出し続けるから」です。寒冷地でゆっくり生長した木曽ひのきは柾目が詰まっていて、水分含有量が少ない。水分含有量が少ないということは、木材が伸縮しにくいので、製作した時のバランスが維持されやすいんです。
福井 天然の木曽ひのきは年間の伐採量が限られていて、今では希少価値材になっています。
大治氏 せっかくいい木材と職人技を駆使して神棚を作っていらっしゃるのに、リーズナブルな価格で店頭販売されていることにも驚きました。これでは唐箕屋さんが作り手として報われないのではないかと。
小保田氏 数年前から、安価な「モダン神棚」なるものが普及していて、ホームセンターやネット通販などでも見かけるようになりました。残念なのは、そういうところで販売されている製品の多くがおそらく海外で量産された「家具調」の神棚で、正しい知識や作法に則ったものではないということ。私たちとしては「本物」であることにこだわり続けたいけれど、価格的にあまりに開きを出すこともできないというジレンマに陥っています。
大治氏 小保田さんからそういうお話も聞いて、ますます僕にお手伝いさせていただきたいという気持ちになりました。woodpecker×唐箕屋本店×Oji & Designコラボの新しい神棚、ブランド名はギリ戸にちなんで「GIRIDO」しかないと。
福井 その場で、ラフスケッチを描いてくださいましたよね。
大治氏 すっとアイデアが降りてきたのはやはり、唐箕屋さんで製品や現場を見させていただいたからだと思います。そしてスイッチが入った僕は、唐箕屋さんを出た後、福井さんに多度大社へ連れて行っていただいたという(笑)。小保田さんがスケッチを見て「柱は少し斜めに」とおっしゃったことが気になっていたのですが、確かに社殿を支える棟持(むなもち)柱は少し斜めに立っていて、建物全体の凛とした美しさを際立たせていました。「そういうことか」と納得するとともに、小保田さんの言葉通り、「本物であること」を大切にした新しい神棚をデザインしようと思ったのです。
福井 こうして「GIRIDO」プロジェクトは立ち上がり、試作とブラッシュアップを重ねていきました。
小保田氏 実を言うと僕は、デザイナーとコラボして本当にいい神棚ができるのかなと思っていたんです。でも、大治さんのデザインをもとに試作品を作ってみたら、これがとてもいい仕上がりで(笑)。デザインの力を実感しました。
大治氏 うれしいお言葉です。僕が手工業デザインにおいて大切にしているのは、アートとして愛でるものではなく、実生活の中で使えるものという視点。それは、アイデアと作り手の技術の両方が結びついてしか生まれません。だから今回、woodpeckerさんを通じて出合えた神棚という製品や、唐箕屋さんの「ギリ戸」をはじめとする技術は、僕にとって幸せなご縁でした。
福井 改めて今回のデザインのポイントについて教えてください。
大治氏 神棚本来のあるべき姿や役割を守りつつ、今の暮らしに溶け込むシンプルさと使いやすさを追求しました。ギリ戸も採用した本格的な「置き型」と、コンパクトな壁掛け型の2つのタイプを用意したのも、さまざまな住空間やライフスタイルに合わせて取り入れやすいようにと考えたものです。
福井 「壁掛け型」は扉が開きませんが、御札を背面にすっきりと収めることができるようになっています。また、壁掛け型の固定には画びょうやネジをお使いいただけるようにしました(※画びょうの場合:裏面のマグネットを、壁にさした画びょうに付けてください。ネジの場合:裏面の穴をお使いください)。
大治氏 神棚はどこまで進化してもいいか、そのあたりはサイズ感なども含め、みんなで侃々諤々、アイデアを出し合いながら形にしていきましたよね。「 GIRIDO」は僕にとっても思い入れのある製品のひとつになりました。
小保田氏 「GIRIDO」がwoodpeckerさんのオンラインショップや当社の店頭に並んで、お客様の反応を見る日が楽しみです。神棚は、お札を祀って、毎日お参りするための道具。「GIRIDO」を通して、ご先祖様を敬う気持ちとか、神様に感謝することとか、私たち日本人が大切にしてきた「こころ」にふれるきっかけを多くの人に提供できたらいいなと思います。
福井 本当ですね。そして今回つながったご縁を生かして、「GIRIDO」にとどまらず、またこの3人で何か 別のコラボにチャレンジしたいですね!
小保田氏 いいですね。
大治氏 ぜひぜひ。今後ともよろしくお願いします。
福井 本日はありがとうございました。